
ひつじ先生より
先日は、『鏡』について授業しました。本日は、『青が消える』という作品について、紹介したいと思います。ただ、この作品は現在、明治書院の『新 精選国語総合』という教科書で掲載されています。一度は確か消滅していましたが、復活いたしました。
ひつじ先生は、この作品が大好きです。授業でも『鏡』に比べてやりやすいのではないか、とも思います。ただ、この作品は、単行本の短編集には掲載されていません。全集のみにあります。そのため、村上春樹作品が好きな人でも、読んだことのない人がけっこういるかもしれません。ひとまず内容を紹介します。
『青が消える』あらすじ
『青が消える』
(初 出 誌 ―「 ル ・ モ ン ド 」紙 1992 年 ) 『村上春樹全作品1990~20 01短編集Ⅰ』(2002年/講談社)所収
「僕」がアイロンをかけていると、ストライプのシャツから青の色だけが消えてしまった。 それは、「梶棒で殴られて記憶を失ってしまったようなとりとめのない白」に換わってしまった。それはそのシャツだけではなく、クローゼットや引き出しの中のすべてのものについても同じだった。青はすべて失われ、白に換わってしまったのだ。それは一九九九年の大晦日の夜のことだった。
青が消滅したことについて何か情報を得ようと、僕はまず喧嘩別れをした彼女に電話をかけてみた。しかし、全く相手にしてはもらえなかった。その後、外に出て、ブルーライン の地下鉄の駅に行ってみたが、そこでも青は消えていた。駅員に聞いてみたが、政治に関することは聞かないでくれと怒鳴られてしまった。次に内閣総理府に電話をしてみたが、そこでも形あるものはいずれ消えるのだから あまり深刻に考えないようにと言われ、それでも納得できない「僕」は、町をさまよった。そうしてミレニアムがやってきた。人々は浮かれ騒いでいた。誰も青のことは気にかけていなかった。しかし、「僕」はどう しても青のことが気になった。それは大好きな色だったのだ
登場人物について
僕(岡田)…主人公。先日彼女と喧嘩別れをした。
別れたガールフレンド…ミレニアムパーティーを楽しむ。消えた青について気にしない。
地下鉄の職員…ブルーラインの乗務員。真っ白になってしまう。怒りをあらわにする。
内閣総理大臣…コンピュータシステム。消費社会の体現者。若山牧水の歌をよむ。
ひつじ先生より 何が優れているか??
この話の何が優れているかを個人的な所感を交えて説明します。
登場人物の設定から最後の結びまで、主人公の僕が一貫して消えた「青」に関して説明などを追い求めていき、最終的には本人なりの「気づき」を得るという構成です。中心人物がどのように変化したのかを読み取りやすく、構成がはっきりしています。
アイロンをかけていると「青」が消えます。いかにも、村上春樹の小説の展開で起こりそうな内容です。『象の消滅』とも似ています。失ったものを探しにいくという設定。だいたい、身近なところに事件が起こります。
別れたガールフレンドのセリフは刺激的です。冷たい態度の女性は村上春樹作品でよく描かれます。
僕に対して、「あなたってどうしてそんなに辛気臭い人生を送らなくちゃいけないの?」
(青が消えたことに対して)
ちょうど機械のバッテリーがあがってしまったときみたいに。
あるいはまるでオーケストラの指揮者が演奏の途中で気を変えて、突然指揮棒を振るのをやめてしまったみたいに。
(青について)
棍棒で殴られて記憶を失ってしまったようなとりとめのない白
などがあります。
どれも、この小説の主人公の「悲しみ」を引き立たせるような比喩になっており、この作品の全体の雰囲気を作り上げています。
短編の中でも特に短い短編であるにも関わらず、数多くの登場人物を描いています。それも、少ない文章であるにも関わらず、この主人公のもつ「悲しみ」を強調する役割があります。ただ、地下鉄の職員だけは、ある意味「白」を失った同類なので、同じ境遇からくる怒りなのかもしれません。
読み解くポイントは?
この話が、ミレニアム(2000年)という設定になっていますが、書かれたのは1992年であるということです。近未来を予測して村上春樹が描かれたという点には注目すべきです。1992年の時点で、未来に対する村上春樹の思いをこの作品で表現したということができます。
前回の授業でも話したように
「現代社会に生きる個人と大きな体制(システム)」
というテーマを感じ取れます。
時代が進んでいき、消費社会が進んでいき、その中で自分が個人的に好きなものが国家やシステムに奪われてしまったらどうだろうか?
「個人と国家」というテーマにかなりフォーカスしています。
考えてみよう!!
・青が象徴するものは何だろうか??
・この話で未来を感じる部分はどんなところだろうか??
ひつじ先生より
この作品は、折に触れ何度も授業で行ってきました。村上春樹入門にはちょうど良い作品でありながら、なおかつストーリーかつ会話が面白い。そして、授業の中で多様な考えが出やすい作品なので盛り上がります。ぜひ、授業で学んでほしいと思います。
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