『カンガルー日和』−村上春樹はどう教えられているかを考えるPart3−

ひつじ先生より

今年もノーベル賞文学賞の発表が先日ありました。いつかは、ノーベル文学賞を受賞すると予想されていますが、今年は受賞されませんでした。いつかは受賞されることを期待しつつ、引き続き、ひつじ先生は、教科書に掲載されている村上春樹作品を紹介しようと思います。

本日扱う作品は、「カンガルー日和」です。この作品は、自分としてもずっと思い入れが強い作品であり、大学院在学中、夜間高校で非常勤講師をしていたときに取り扱った教材です。

なかなか学びに向かうことが困難だった生徒たちが、少しは文学面白いなと感じてくれた瞬間が教室にはありました

一方的な講義型の授業ではなく、生徒同士の感想交流をすることができました。昨今言われているアクティブラーニングとは程遠いですが、教室に少しだけ一体感が生まれた瞬間があの授業にはありました。

そもそもなかなか教科書すら開かない(持ってこない)生徒が、あの時、自分に向かって「本を読むって面白いね」と言ってくれたことがありました。

今も、その時の言葉を原動力に教員としての仕事に向かっています。それでは、行ってみましょう。

「カンガルー日和」あらすじ

新聞でカンガルーの赤ちやん誕生のニュースを見た 「僕」は、それを見るにふさわしい日が来るのを待っていた。

そして一ヶ月たってその日がやつてきた。柵の中には四匹のカンガルーがいた。一匹はオスで、二匹がメス、そして赤ん坊。

新聞で見たよりもずっと大きくなっていることに少しがっかりするが、赤ん坊はやっと母親の袋に入る。

母親と赤ん坊は一体となって時の流れに体を休めているのに対して、父親のカンガルーのほうは、何か失われたものを捜し求めているようだった。

久しぶりに暑い1日になりそうだった。二人は、ビールを飲むことに意気投合する。

登場人物について

僕…一月前の新聞でカンガルーの赤ちゃんが生まれたことを知り、カンガルーの赤ん坊を見るのにふさわしい朝の到来を待ち続ける。

彼女…カンガルーの赤ちゃんを見ることをかなり期待している。赤ちゃんではなく、小型のカンガルーになっていることにショックを受ける。けれど、袋に入ったことに対して喜ぶ。

二人の会話を中心に物語は描かれる。

ストーリーは何も難しくない。

村上春樹らしい乾いた文体というか、淡々とした文体で、その日の日常が描かれる。

二人の会話に注目することでこの作品の醍醐味を味わうことができる。

 

何が面白いか!?考える視点か!?

この話は繰り返しになるが、ストーリーは全くもって難しくない。だからこそ、村上春樹らしい会話や表現をきっかけに作品を味わうことができる。

味わう視点

「それが人生なのだ。」(「僕」の語り)

そもそも人生は最初からうまくいくものではない、という諦めとも言える考えを表す言葉。だからこそ、うまくいったら嬉しい。

村上春樹作品の初期には、主人公がとにかく「やれやれ」という言葉を発する。そこまで何にも期待していない語り手(僕)。そのある意味、達観している「僕」は魅力的なのだ。

 

味わう視点
才能が枯れ尽きてしまった作曲家のような顔つきで餌箱の中の葉をじっと眺めている。(カンガルーの父親)

昼間に動物園に行けば、この様子を間近でみることができる。それは行けばわかる。少し悲しげな様子を比喩で表している。村上春樹の比喩は、遠すぎない、そして卑近でありながら、ピタッと読者に共感を与えるように使われている

味わう視点
青山通りのスーパーマーケットで昼下がりの買い物を済ませ、コーヒーショップで一服しているといった感じだ。(カンガルーの母親)

おしゃれな雰囲気が伝わってくる。こういう生活を普段しているのではないか??と創造してしまう。一個一個の固有名詞が、村上春樹の世界観を作っている。「スティービーワンダー」「ビリージョエル」などアメリカ文化を象徴する言葉も用いられている。どこまで万人に共感できるかはわからないが、好きなものを用いて世界観を小説で形成していくことが作品の魅力につながっている

味わう視点
「ねぇ、どこかでビールでも飲まない?」(彼女の言葉)

「ビール」は夏の不快感を爽快感に変える役割をもつ。作品の結びにこのような表現がなされていると、後味が非常に良い。読んだ後の心地が非常に良いものに仕上がっている。

考えてみよう!!

この作品を通じて授業で展開を広げるとすれば

「カンガルー日和」とは?

カンガルーの親子を見た後の、梅雨明けの爽やかな初夏の1日と説明できる。その後、発展として、

「○○日和」を作ってみよう!! 

なかなかくだらない内容かもしれないが、生徒に即座に作らせて発表させるのも面白い。

ひつじ先生より

さて、今回も村上春樹作品を取り扱いました。

他にも教材化されているものは、「レキシントンの幽霊」「七番目の男」「とんがり焼きの盛衰」「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」「沈黙」があります。様子を見て、随時更新していきます。次回からは、村上春樹の比喩表現に関して紹介したいと思います。

ありがとうございました。

 

 

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