『徒然草』丹波に出雲という所あり(236段)

『徒然草』とは?

(ひつじ先生)
(本日から、『徒然草』を扱って時いきたいと思います。中学生の時にも勉強しているとは思いますが、少しでも魅力を伝えることができたらと思います。今回扱う章段は教科書にも掲載されている有名な部分です。たまに入試問題として出題されることもあります。まずは基本情報から確認していきましょう。)

基本事項(ポイント)

 

作者 兼好法師

 

ジャンル 随筆

 

成立 鎌倉時代末期(1331年)

 

その他 全部で243の章段

 

兼好法師ってどんな人?

兼好法師はいったいどんな経歴の人なのか。俗名は卜部兼好(うらべかねよし)。南北朝時代に生きた人です。若い時は、堀川家に仕えていたこともあり、天皇の近くに仕えていました。そのため、女性と接する機会が多くあったのです。30歳くらいで出家をするのですが、この随筆の中には、実は、女性に関する内容を数多く残しています。お坊さんでありながら、女性に関する内容があることが実は教室の中であまり教えられていません。また、今後の授業で紹介したいと思います。今回のことは、知ったかぶりをして恥をかいてしまう上人の話です。

丹波に出雲といふ所あり(本文)

丹波に出雲といふ所あり。大社を移して、めでたくれり。しだのなにがしとかしる所なれば、秋のころ、聖海上人、そのほかも、人あまた誘ひて、「いざたまへ、出雲拝みに。かいもちひ召させん。」とて、具しもて行きたるに、おのおの拝みて、ゆゆしくおこしたり。御前なる獅子・狛犬、背きて、後ろさまに立ちたりければ、上人いみじく感じて、「あなめでた。この獅子の立ちや、いとめづらし。深きゆゑあらん。」と涙ぐみ、「いかに、殿ばら殊勝のことは御覧じとがめずむげなり。」と言へ、おのおのあやしみて、「まことに他に異なりけり。都のつとに語らん。」など言ふに、上人なほゆかしがりおとなしくもの知りぬべき顔したる神官を呼び、「この御社の獅子の立てられや、さだめてならあることにはべらん。ちと承らばや。」と言はれければ、「そのことに候ふさがなきべどものつかまつりける、奇怪候ふことなり。」とて、さし寄り据ゑ直していにければ、上人の感涙いたづらなりにけり

めでたく…立派に

しる…領有している

あまた…たくさん

かひもちひ…ぼたもち

具し…連れて

ゆゆしく…はなはだしく

なる…存在の助動詞(地名や場所が前につくと存在になる)

あなめでたや…ああ、すばらしい

殊勝…すばらしい

むげなり…ひどい

ゆかしがり…知りたがり

おとなしく…もののわかった

ならひ…いわれ

さがなき…意地の悪い

奇怪…けしからん

いたづらに…むだに

 

丹波に出雲といふ所あり(現代語訳)

丹波の国に出雲という所がある。出雲大社の神霊を迎えて、(社殿を)立派に作ってある。しだのなんとかという人が領有している所なので、秋のころに、聖海上人や、そのほかも、人をたくさん誘って、「さあいらっしゃい、出雲の神を拝みに。ぼたもちをごちそうしよう。」と言って、連れて行ったところ、全員が(出雲神社を)参拝して、深く信仰心をおこした。(そのとき、)社殿の前にある獅子と狛犬が、背中を向け合って、後ろ向きに立っていたので、上人はたいへん感心して、「ああ何とすばらしいことよ。この獅子の立ち方は、たいへん珍しい。深いわけがあるのだろう。」と言って涙ぐんで、「もし、みなさん、すばらしいこととは見てお気づきになりませんか。あまりにひどすぎます。」と言うと、一同は不思議がって、「本当によそと違っているなあ。都へのみやげ話として話そう。」などと言うと、上人はいっそう(そのわけを)知りたがって、年をとっていていかにもものをわかっていそうな顔をしている神官を呼んで、「このお宮の獅子のお立てになり方は、きっといわれのあることでございましょう。ちょっとお聞きしたい。」とおっしゃると、「そのことでございます。いたずらな子供たちがいたしました、けしからんことです。」と言って、そばに寄って、置き直して行ってしまったので、上人の感涙はむだになってしまった。 

ひつじ先生より

いたずらをした子供の行為に感動の涙を流してしまうという何とも言えない滑稽な話です。感動している上人、とりあえず合わせる参加者、そしてとにかく淡々とした行為の神官、この三人の組み合わせが非常に面白いです。思わず想像すると笑ってしまう場面です。

ああ、「知ったかぶりは恥ずかしー」って思いますよね。今でも、高級なお店に言ってやたらウンチクを垂れる人とか、大してがんばってもいないのに、「おれすげーよ」っていう感じで話をする人いますよね。まぁ、本当にすごいパターンもありますが、私はその話を聞いている時、ちょっとこの話を思い出して、こちらが気恥ずかしくなってしまいます。

今回の話は、徳の高い上人がヘマをするので、その落差が非常に効果的にオチとして面白さを引き立てています。また、よせばいいのに、さらに「ゆかしがり」て神官に聞くという事態まで発展していくということ。まさに恥の上塗りですよね。わざわざ、こんなことを兼好法師は書くのですから、上人に対する厳しい観察眼が文章に現れていると思います。

その他 豆知識

出雲について

現在の島根県に出雲大社というのがあります。ただ、今回の出雲は京都の亀岡市の出雲です。出雲大社を分霊して、立派に建造物を作ったということです。大昔は日本の西が文化の中心でした。なぜなら、大陸から船で渡って日本へ文化が伝来したのです。鉄砲もキリスト教もです。

 

かいもちいひ(ぼたもち)について

なぜ、もちが神社などで名物になるのか。伊勢神宮の赤福餅も有名ですよね。どうやら、もちはかなり当時の生活に密接に関係しているようであり、五穀豊穣を祈る時に、どうやらもち米を使用していたそうです。また、非常に高価なものとして扱われていたみたいです。今でも「棚からぼたもち」とも言いますしね。

 

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