ひつじ先生より
今回は、村上春樹『とんがり焼きの盛衰』を扱って、学校ではどう教えらているかを考えていきたいと思います。
この作品は、短編集『カンガルー日和』の中に収められている作品です。
また、村上春樹作品をはじめて読む人におすすめしたい「はじめての文学」シリーズの中にも収められています。
こちらの本のシリーズは、文学に親しむために、若者向けに著者が自選している短編が多数収められています。私も、学生時代に重松清や宮本輝、川上弘美などを読みました。文学に親しむきっかけになります。それでは、『とんがり焼きの盛衰』にいきましょう。
あらすじ
〈名果 とんがり焼き・新製品募集・大説明会会場〉と書かれた新聞記事を見て、僕は説明会会場へ向かう。とんがり焼きの味が古くさくなって売り上げが落ちてきたので若い人のアイデアが欲しいということらしい。僕には現代的なとんがり焼きを作り出すくらい簡単だ。とんがり製菓から電話があり、僕は来社する。専務によると、僕の応募したとんがり焼きはなかなか評判なのだが、年配のものの中には、とんがり焼きではないと言うものもあるので、とんがり鴉に意見を訊くという。とんがり鴉は倉庫のようなところにずらりと並んでいた。普通の鴉よりずっと大きく、目のあるべき場所には脂肪のかたまりがくっついて、おまけに体ははちきれんばかりにむくんでいる。とんがり焼きしか食べず、とんがり焼きでないものを与えるととんがり焼き!と大声で、叫ぶ。ぼくのつくった新とんがり焼きを与えてみると、ある鴉は満足してそれを食べ、ある鴉はそれを吐き出して、とんがり焼き!とどなった。乱闘が始まり、血が血を呼び、憎しみが憎しみを呼んだ。僕はとんがり製菓の建物から退出した。賞金は惜しかったが、この先の長い人生をあんな鴉たちの相手をするなんてまっぴらだと思ったのだ。僕は食べたいものだけを作る、鴉なんかお互いにつつき合って死んでしまえばいいんだ。
この教材のポイントは?
この作品(教材)を読み解く重要なポイントは
寓話ということです。

とんがり鴉が何を意味しているのか。
そもそもとんがり焼きは何を表しているのか。
一つ一つの解釈の多様性こそがこの教材の魅力なのです。
この教材を読み解く上で、ヒントになる視点を示します。

これは、以前私が授業をした際に、生徒に示したものです。実際にこういった視点を考えることが、寓話をより深く読み解くことに繋がるのではないかと考えています。
さらに、「寓」という言う言葉には「かこつける」という意味があります。いきなり、この作品の寓話の意味は?と問いかけても、正直なかなか考えづらい場合があります。そういう時は、「寓意」を考えることが効果的な時があります。
例えば、以下のシートで「寓意」を考えると良いかと思います。

Aは、冷静で思慮深い人は、本を読む
そして、感情的にならない。
Bは、スマホ依存への警鐘
Cは、個性を奪う教育の弊害
Dは、資本家の搾取
などです。これ以外にも考えつくものがたくさんあると思いますが。
こういった事例を考えると、「寓話」が多様な解釈可能なものということも実感できるのではないでしょうか。
「とんがり焼きの盛衰」の寓意とは?


上のように示しましたが、他にもたくさん考えられると思います。
実際、この作品は、調べてみると、村上春樹が当時の文壇を批評したものとして書かれています。


と村上春樹は言っています。ただ、私は個人的に思うことですが、
寓話の魅力を改めて考えると、

と言えると思います。作者の手を離れてから、何年後にも、そして何十年後にも、その時代へのメッセージとして解釈することができるのです。そういう意味で「普遍性」をもった作品なのです。
おわりに
ここまで、『とんがり焼きの盛衰』を解説してきました。繰り返しになりますが、「多様な解釈」をすることができる作品です。みなさんも、いろんな「寓意」を考えて議論してくれるとより「文学」を身近に感じることができるのではないでしょうか。
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